scroll
留学体験記
―先生が留学された経緯についてお聞かせください。
H医師
所属先の医局の許可を得て、2016年春から約2年3ヵ月、アメリカの小児病院に留学しました。私には昔から「海外で研究をしたい」「一度は海外で生活をしてみたい」という憧れがあり、医師になってからも7~8年間、英会話教室に通っていました。実際に行動に移したのは、2012年の米国心臓病学会で座長を務められた先生との出会いがきっかけでした。当時、私は単心室という心臓病の研究に携わっており、同分野で著名な先生の論文を何本も読んでいたので、「先生のもとで仕事がしたい」と直感的に思ったのです。実際に留学するまで結局4年もかかってしまいましたが、いろいろな先生方にご協力をいただいて、留学までこぎつけることができました。
―実際に留学して良かったことは何でしょうか。
H医師
一つは、基礎研究に本格的に携わったことで、組織・細胞・遺伝子レベルでは何が起こっているのか、病態変化をより深く意識できるようになったことです。普段の臨床では、何げなく処方していた薬についても、自然と組織・細胞・遺伝子レベルで考えるトレーニングになりました。また、憧れだったボスと過ごす時間もとても貴重でした。週1回の研究室ミーティングでのディスカッションや、カンファレンスにおける患者さんに対する発言など、ボスの思考過程は極めて論理的で、とても勉強になりました。何より医師として、研究者として、そして人として目標になる方に出会えたことが、留学の成果としては一番大きかった気がします。
それに忙しく働いていた日本にいる時とは異なり、家族や友人と過ごす時間が増えましたね。日本人研究者の友人家族とBBQやキャンプなどをしたことが、いいリフレッシュになりました。交流関係は今も続いていて、留学中にたくさんの友人ができたことも非常に良かったと思います。
それに忙しく働いていた日本にいる時とは異なり、家族や友人と過ごす時間が増えましたね。日本人研究者の友人家族とBBQやキャンプなどをしたことが、いいリフレッシュになりました。交流関係は今も続いていて、留学中にたくさんの友人ができたことも非常に良かったと思います。
―ボスのどういうところに影響を受けたのですか。
H医師
まず、不確かなものを確かと言わないところです。どこまでがわかっていて、どこからが想像の世界なのか。きっちり分けておられることに感銘を受けました。また、非常に著名な先生なので、われわれが読むような教科書的な本はお読みにならないのかと思っていたら、そういう書物もきちんと勉強されていたんですよ。驚くと同時に、世界的な先生でも日々勉強されているのだから、自分も一生懸命学ばなければと大きな刺激を受けました。あとはジョークもお上手なんですよね(笑)。僕は今、一般小児医療に従事していますが、ボスに出会えたことで、物事の考え方が以前よりもブラッシュアップされた気がします。
―逆に、留学中に苦労されたことは?
H医師
やはり現地での生活費や保険料などの費用面です。留学当初は無給だったので、経済的にやっていけるのかという不安がありました。留学中に妻が出産して家族が増えたこともあり、生活費にそれなりのお金がかかりましたから、無給であることのプレッシャーはかなりありました。幸い、約半年後に留学先から給与を支給されるようになったのと、ある財団から留学助成金を頂けたことで、経済的なストレスが解消し、研究に集中することができました。私は「心筋虚血と炎症」の研究をして、なかなか成果が出ず苦しい時期もありましたが、財団から自分の研究が価値あるものだと認められたことが、研究に向き合う大きなモチベーションになりました。
―経済面以外に、どんなことが不安でしたか?
H医師
臨床であれば、治療をすることで患者さんが回復し、患者さんやご家族から「ありがとうございました」と感謝されることで、達成感を得られます。しかし、研究はすぐに結果は出ません。結果が出ない日々が続く中で、「自分は本当にここにいていいのか」と追い込まれることもありました。また、長期間臨床から離れるので、帰国後に以前と同じように仕事ができるのかという不安も日に日に強くなりました。留学中はそれが本当に不安だったのですが、実際は体が覚えているもので、意外に大丈夫でしたね(笑)。振り返ってみると、苦労することもいい勉強だったと思います。
―JMAの留学制度についてどのよう感想をお持ちですか?
H医師
経済的な問題は、考えていた以上に大きなストレスだったので、このような制度は留学を希望する医師にとって非常に魅力的だと思います。最大3年間1,500万円まで助成してくれるなんて、本当に素晴らしいし、このようなサポート体制のある病院はなかなかないと思います。
―現在、留学を考えている医師へアドバイスをお願いします。
H医師
私は留学を通して、研究と臨床は決して対極にあるものではなく、相乗効果があると実感しました。研究も臨床も思うような成果が出ないことは多々ありますが、病気に苦しんでいる子どもたちやご家族のために、チームの一員として働く喜びを再認識できたのは、一度臨床を離れて研究に没頭したからこそだと思います。帰国後は、医療に携わる責任の重さを改めて感じると同時に、どんなに難しい状況でもポジティブな気持ちで日々の診療にあたっています。その意味では、まだまだ未熟ではありますが、留学前よりはレベルアップできたのではないかと思っています。
経験者の立場として言えるのは、目標がしっかりあって、諦めなければ、必ず道は開けるということです。僕自身、英語が得意なわけではありませんでしたが、留学先で大事なのは語学力よりマインドだと実感しています。JMAには充実した留学制度があるので、留学に興味があって、行きたいという気持ちがあるなら、ぜひ諦めずに挑戦してほしいですね。僕自身は留学して良かったと、今でも思っています。今後は、アメリカで学んだことを活かして、専門である小児循環器の分野でも社会に貢献していきたいです。
経験者の立場として言えるのは、目標がしっかりあって、諦めなければ、必ず道は開けるということです。僕自身、英語が得意なわけではありませんでしたが、留学先で大事なのは語学力よりマインドだと実感しています。JMAには充実した留学制度があるので、留学に興味があって、行きたいという気持ちがあるなら、ぜひ諦めずに挑戦してほしいですね。僕自身は留学して良かったと、今でも思っています。今後は、アメリカで学んだことを活かして、専門である小児循環器の分野でも社会に貢献していきたいです。
取材日:2018年11月